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記者会見

トップページ > 記者会見 > 『アウトレイジ 最終章』第74回ヴェネチア国際映画祭 公式記者会見

『アウトレイジ 最終章』
第74回ヴェネチア国際映画祭 公式記者会見

2017-09-14 更新

北野 武監督、森 昌行プロデューサー

アウトレイジ 最終章outrage17

配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野
10月7日(土)、全員暴走!
© 2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会

 北野 武監督の「アウトレイジ」シリーズ3部作の完結編『アウトレイジ 最終章』(10月7日全国公開)が、イタリアにて開催された第74回ヴェネチア国際映画祭のクロージング作品に選ばれ、監督と森昌行プロデューサーが上映前に行われた公式記者会見に出席した。


今回の役はちょっと時代遅れのヤクザと定義されてますが、ヤクザを語る映画はここ近年どう変わってきていますか。

北野 武監督: バイオレンスの映画というのは現在の世界情勢もあって、あまり良く評価されない傾向にあるんですが、私の描くヤクザ映画というのは実は、拳銃と肉体的な暴力を除けば、現代社会における普通の企業の構造にかなり似ています。私が演じた大友という役も古いタイプの勤め人であって、それが今の世の中では犠牲になる存在というような話にもなるわけです。エンターテインメントとしてのバイオレンス映画を考えるとやっぱり、新しいヤクザと古いヤクザの抗争を描くのは面白いと思います。


バイオレンスに関しては今作だけではなく、過去作品でも多く描かれてきましたが、監督のバイオレンス描写はどう変わってきましたか。

北野 武監督: まあ、はじめはかなりリアルな感じで描きましたし、例えば歌舞伎のような様式美ではやりたくないとは思っていたんですが、リアル感をあまりにも追求するとかえって、エンターテインメントとしては良くないわけです。だから、その中間というか、リアルさを保った演技・演出であることを前提としつつ、エンターテインメントであることを踏まえた映像を撮ろうとしたつもりです。


監督は以前、絵も描いておられましたが、画家としての北野 武のメソッドは、監督としての北野 武にどう影響を与えましたか。

北野 武監督: 映画というのは、音楽や写真、絵、文学的なせりふとかが入った総合芸術だと思うので、いろいろなものを勉強しようと思って手を出しましたが、画家などと言われますと非常に恥ずかしいです。実際は小学生レベルの技術しかありませんし、ただ、続けていればいずれ何か良いことがあるんじゃないか……としか思っていません。絵を描くことが映画に良い影響を与えるとしたら、それは素直に嬉しいことだけれど、自分は(画家という)認識はしていません。あまり絵の才能はないんで。


ちょうど20年前にヴェネチアでは『HANA-BI』で金獅子賞を受賞して、その後も『菊次郎の夏』のような素晴らしい作品があり、人情あふれる登場人物を描かれてきました。そうした登場人物たちに監督は親近感を抱かれているのですか。今作の大友もそういうところがあるかと思いますが。

北野 武監督: 日本におけるヤクザの世界にもかつては義理人情というものがあったでしょうし、もちろん悪い人たちですけど、確かにそういうタイプの人はいたはずなんです。今度の映画も、任侠の世界と人情の葛藤を描いたつもりです。
 自分が生まれた東京の下町では、あまり「人情」という言い方はしないですけど、他人に対する思いやりとかは大切にされていて、そういう所で育ってきたので、人情は自分の根っこにあるかもしれません。
 映画もバイオレンスばっかり撮るのも相当疲れてきたんで、今度はもう少し優しい映画を撮りたいと思っています。


監督の作品を拝見すると、ヤクザの世界をよくご存じのように感じます(笑)。

北野 武監督: (笑)。まあ、一番近いヤクザの知り合いはこちらですけど(……と、森プロデューサーを差して、にんまり)。

森 昌行プロデューサー: あはは。

北野 武監督: 日本で芸能の世界にいると、しばらく前までは、日本全国を巡業するとその土地の親分が必ずいて、興行を仕切っているというのが常識でした。今は日本の警察が介入して、そういう人たちが関わらないようになったわけですが、数十年前だったらそういう危ない人たちと同席したりお酒を飲んだという話も聞くことはありました。それはそれですごい時代だったなと思いますね。


森プロデューサー、北野監督はどういうタイプの監督ですか?

sandomeoutrage17森 昌行プロデューサー: 北野監督は、我々製作サイドの人間だけではなく、現場でスタッフが演出意図やちょっとしたセリフに関して疑問に感じたことや新たな提案に対して、非常に寛容な監督です。ただ、それを受け入れるかどうかは全く別の問題です。自らの信念に基づく演出をされるわけですから、柔軟に意見を取り入れてくれることもありますし、ダメな時はダメですし、それは当然のことですね。すべての監督がそうでしょうけれども。少なくとも北野監督は、我々が意見することを躊躇するような、いわゆる気難しい監督ではありません。良いものを創りたいという思いは皆同じですし、現場にオープンな雰囲気を生み出してくれる監督だと、私は思っております。


素晴らしい映画をありがとうございます。今回の作品は『ソナチネ』(93)とつながっている印象を受けましたが、いかがでしょうか。また少し驚いたのは、音楽があまり使用されていないことでした。

outrage17北野 武監督: 今度の映画は自分でもラッシュを最初に観たときに、「あ、『ソナチネ』に似てきてしまうぞ」と気づきました。それはそれで構わないとは思うんですが、ちょっと離れたいという気持ちもありまして。『ソナチネ』ではかなり、精神的にぶっ飛んでるような映像を多用したつもりなんですけど、今回は割に現実的なヤクザの抗争の映画なので、『ソナチネ』的な要素が入らないように努力はしたものの、海が出てきたり、いろいろな場面でちょっと自分でも似てるなと思ってしまうようなことが出てきて、気がついた時点で結構外しました。ただ、映画のストーリー自体がちょっと似たところもあるなという気はしています。
 音楽に関しては、作曲家の方にはちょっと失礼なんですが、聞こえてはくるけれど気にならない音楽、その音楽を聴くと映画を思い出すというような音作りは止めてほしいと、今回は無茶なことを言いました。音楽家にとっては非常に失礼な注文だったんですけど、怒らずにやっていただいたんで、感謝しています。


エンディングについてお聞きしたいのですが、この結末以外はなかったのでしょうか。他の可能性も検討されましたか?

北野 武監督: 『アウトレイジ』は最初に1本作ったんですけど、興行的にも評価もかなり良かったので、じゃあ、2を作ろうということになり、2を作ると3、3を作ると4と、深作健二監督の「仁義なき」シリーズになる可能性があったので、『アウトレイジ ビヨンド』という2番目の映画の脚本を書くときに、3番目で終わらせる構想をしました。だから、2と3の脚本は同時に書いたようなところがありましたね。
 それに、そろそろバイオレンスは1回止めて、全く別のタイプの映画にチャレンジしようかな、と思いまして。


今作は三部作の終わりというだけではなく、監督が新たな地平に扉を開いたようにも見えました。今年70歳ということですが、今度も新しいことを試みようという思いを込めた、新たな旅立ちとしてのエンディングなのでしょうか。

北野 武監督: ありがとうございます。そういうことを言っていただいたのは初めてですが、内心、その通りだと思っています。今後もまた、変わったことをやります。


監督の描く世界は、叙事詩的・文学的といってもいいヒロイズムを感じさせます。影響を受けた文学作品、少年の頃から監督にとってヒーローだった登場人物などはいましたか?

北野 武監督: 私の母親は芸術・文化的なものを非常に嫌がった人で、戦後の日本で出世するには機械工学や理数系の学問を勉強することだと言って、子供の頃から小説や漫画を読むのを禁じられていました。大学生になってから急に小説を読むようになりましたが、一番感受性の強い子供時代に一切文化的なものに触れさせてもらえず、年をとってから急に楽しむようになったことが、自分にとっては逆に良いことだったように思います。


ヴェネチアでは常に大歓迎されていますが、監督にとってヴェネチア映画祭とは?

outrage17北野 武監督: ヴェネチアで金獅子賞を受賞した『HANA-BI』(97)の前にも何本か映画は撮っていますが、日本ではほとんど評価されず、ダメな監督と言われてきました。漫才やテレビ・タレントもやっていますが、交通事故で体を壊してから、日本のエンターテインメントの世界ではもう「終わった人」というような記事も書かれたりして、自分のキャリアの中で落ち込んでいた時期でもありました。でもおかげさまで、ヴェネチア映画祭で立派な賞を頂いたことで、エンターテイナーとしての評価が一気に回復するような状況になりまして、ヴェネチア映画祭というのは、自分の芸能生活における絶対に欠かせないひとつのエポックというか、「事件」と言えます。ヴェネチア映画祭にはもう9回も招待していただきましたが、いつもその当時のことを思い出して感謝しています。ありがとうございました。


outrage17 記者会見とフォトコールをこなした北野 武監督と森 昌行プロデューサーは同日夜午後9時(現地時間)、ヴェネチア国際映画祭の栄誉あるクロージング作品となった『アウトレイジ 最終章』のサラ・グランデでの世界最速上映に出席、満場の観客から大歓声で迎えられた。  イタリアでは、スクリーンに「オフィス北野」と映し出されるだけで、(たとえ監督作でなくても)拍手が起きる熱狂的なファンの多い北野監督。日本の裏社会に生きる男たちの最後の抗争を、固唾を呑むように見届けた観客はエンディングロールが流れるや、北野監督に向けて拍手喝采を送り、監督もほっとしたような笑顔を浮かべてそれに応えていた。


(取材・文・写真: Maori Matsuura)



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