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2015-04-06 更新
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督
ドニ・フロイド(プロデューサー)
配給:ビターズ・エンド
5/23(土) Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国順次ロードショー!!
© Les Films du Fleuve - Archipel 35 - Bim Distribuzione - Eyeworks -
RTBF(Télévisions, belge) - France 2 Cinéma
マリオン・コティヤールが本年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の最新作『サンドラの週末』。公開に先立ち、ベルギーの巨匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督が『少年と自転車』以来、3年ぶりの来日を果たし、ベルギー大使館にて開かれた記者会見およびアンスティチュ・フランセ東京にて行われたシンポジウムに出席した。
3月25日、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督、ドニ・フロイド プロデューサーによる記者会見をベルギー大使館にて実施した。
まずは、「日本に来るたびに、丁寧で親切なホスピタリティに感謝しています。日本の街も人も好きですが、とくに私は日本料理が好きなんです(笑)」と茶目っ気たっぷりにリュック・ダルデンヌ監督が挨拶。
■本作のテーマについて
リュック・ダルデンヌ監督: この作品は“他人の身になって物事を考える”ことについて描かれています。ご質問にあったような、宗教的な倫理を描いているつもりはありませんが、結果的に、こうしたことのなかに倫理観や道徳のルーツはあるのだと思います。重要なのは、この作品を観る観客が、それぞれの立場になって考えられるかどうかです。彼らの立場になって、内的な対話や問いかけを続ける旅をしてほしいと思います。それが、人と人との連帯に繋がっていくのだと思います。
ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督: サンドラは、病から復帰してきたという点においては、周りの人から弱くて、鈍いと思われてしまうでしょう。しかし、その彼女が、実は他の人を変える力を持っているし、そして自分自身をも変える力を持っていたのです。『サンドラの週末』は、その根底を描いた作品です。いわば、この作品は弱さ、脆弱さに対する礼賛であると考えています。
■プロデューサーからみた監督たちの魅力
ドニ・フロイド: 彼らは、普遍的な価値を描きつつ、現在の話を描ける、稀有な監督だと思います。あるときは、父性を、復讐を、手掛かりの消失について取り上げ考える……本当に素晴らしい監督です。常に映画と現在に関わりを持たせています。また、仕事上だけでなく、友人としてもコンタクトして、よく時事問題についても話し合っています。そうしたところから着想を得て映画が生まれることもあります。(※『息子のまなざし』以降、ダルデンヌ兄弟作品すべてに携わってきたプロデューサー)
■主演マリオン・コティヤールとの共同について
リュック・ダルデンヌ監督: マリオン・コティヤールは)女性、そして女優としてとても寛大な人でした。彼女は他の俳優たちと全く同じ条件で仕事をしてくれました。食事も移動も一緒、ヘアメイクもつけませんでした。撮影に入る前に「私をあなたたちの思うようにしてくださって結構です」と言ってくれたのです。私たちが出す細かな注文を全て受け入れ、突き詰め、そして彼女からの提案や工夫もありました。そして、そうした仕事の仕方に幸せを感じ、他人にもそうした気持ちを発している人です。素晴らしい女優です。いつか、もう一度彼女と仕事をする日がくるかもしれませんね。
3月27日には「21世紀の労働問題」と題して、社会活動家・湯浅 誠氏、労働相談を行なっているNPO法人POSSEの坂倉昇平氏と共に、アンスティチュ・フランセ東京にて映画の試写付シンポジウムを開催した。
■『サンドラの週末』を制作するにいたった経緯
リュック・ダルデンヌ監督: 本作の出発点はフランスのプジョーの工場で起こった出来事です。これは、プジョーの工場で働く労働者9人に聞き書きをした「世界の叫び(La misère du monde)」(ピエール・ブルデュー監修)に描かれている、長期間休んだり、仕事のペースが遅かったり、パフォーマンスが悪いひとりの労働者が、他の労働者たちから解雇させられそうになった事件です。この話から、ある週末に女性が解雇を避けるために同僚を訪ね歩くというお話を思いつきました。連帯の欠如に対して、解雇される労働者側から連帯について再構築しようと、連帯を生み出そうとするプロセスに関するストーリーを作ろうと考えました。
ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督: この話を映画にしたいという気持ちは随分あって、少しずつ、長い時間をかけてストーリーをつくりました。そしてあるとき、突然経済危機がやってきた2008年、この映画を作らなくてはと思いました。いずれにしても、このストーリーを語ることは重要だと思っていましたが、経済危機がなかったら、我々のことを真面目に扱ってもらえなかったかもしれません。わたしたちは、世界がどのような状態にあるのかを見せるような映画を作ろうと思っています。
■湯浅氏の映画の感想、格差社会について
湯浅 誠: 格差社会における連帯がどう可能なのかということについての示唆を感じました。格差型競争社会を、わたしは“隣に人がいなくなる社会”と呼んでいるのですが、同じ職場で働く人たちが自分にとって使えるやつと使えないやつに分類され、同じ労働を共有していても、繋がることが難しくなってきているのは世界的な現象だと思います。
貧困層と言われる人たちが増えていき、その人たちはいろいろなものから排除され、最終的には自分自身からの排除にも至るのではないかと私は考えています。なかなか自分のことを大切に思えない状態。経済的なものだけでなく、精神的なものも重要です。(サンドラが“自分自身からの排除”状態から、夫からはじまり同僚と連帯の和を広げていきます)それは映画の中で一番のポイントだと思いました。人は声をあげるためには、自分が言ったことを誰かが受け止めてくれるという、他者や社会に対しての信頼感がないと、「そんなことやったってどうせ無駄だ」とか、「どうせ自分ひとりではどうにもできない」とか、無力感の方が先に立ってしまって行動そのものに結びつきません。格差社会は、他者や社会に対しての信頼感を取り崩すものです。信頼を取り戻していくには、誰かに働きかけた結果、その人が共感してくれるとか、何かをやったことでほんのちょっとでも何かが変わったと思える成功体験を積み重ねていくことが必要です。
■坂倉昇平氏の感想、日本における労働問題について
坂倉昇平: 日本では若者に限らず、労働組合が全く身近になく、何をするところかも知らないという方が非常にたくさんいます。そういう方が相談にいらしたときに、私たちは、一から労働組合についての説明をします。その中で、サンドラのように連帯を一から作っていく過程を目にすることがあります。映画を観て思い出したのが、全従業員が女性の全国規模の企業で、月150時間の残業をして、職場で倒れてしまったり、痙攣を起こしながらも働いていた方の事例です。当初、その方は、しっかりと休んだ上で、いままでの残業代だけ取り返して会社を辞める予定でしたが、「労働組合だと、会社の環境を改善したり、仲間を集めて社長に訴えかけたりすることができますよ」とお伝えたころ、彼女は「それ、やりたいです」と言い、現在その方と、会社と団体交渉をする準備をしています。
職場に残る同僚や後輩が、自分と同じように働いて苦しまないよう、何とかしようと決意する人たちは、日本にも実際にいます。連帯の原点を描くことが、この映画のテーマだと思うのですが、ベルギーと日本で労働条件は全く違うにもかかわらず、不安や断絶に悩みながらも、労働者が仲間を集めていくという普遍的な光景が見られて、非常に心を打たれました。
■監督たちから、本作を通してのメッセージ
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督: サンドラ自身労働者で、どの同僚に対しても連帯の心を持っています。「あなたが戦うのは分かるけれど、ボーナスを諦めることはできない」と同僚に言われたら、サンドラは「それは分かるわ」と答えます。サンドラはどの人も否定はしないのです。サンドラは、政治的な意図も、労働組合を作ろうという意図も持っていませんが、ただ、「どうにかうまくやっていきたい。なんとか状況を解決したい」と思い、同僚たちのもとにお願いに行きます。この映画は、労働組合のない社会のはじまりを語っているとも考えられます。自分でも知らないうちに、彼女は労働活動をしているのです。観客は、連帯を求めるサンドラへの共感と同時に、こんなことを強いる社会は悲惨だと感じるでしょう。現在、連帯がとても重要な問題に改めてなってきています。現在の労働の仕方、働き方では、競争の中で連帯を持つことがますます難しくなって来ています。映画ですべてを解決できるとは思っていませんが、本作を通じて観客の皆さんに考えるきっかけになってほしいと思います。
(オフィシャル素材提供)
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