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記者会見

トップページ > 記者会見 > 『ノーカントリー』来日記者会見

来日記者会見

2008-03-28 更新

ハビエル・バルデム

ノーカントリー

配給:ショウゲート
3月15日(土)より全国ロードショー中
(C)Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.

 第80回アカデミー賞で、作品賞を含め最多主要4部門受賞という快挙を果たした、ジョエル&イーサン・コーエン兄弟監督・脚本の『ノーカントリー』。麻薬密売に絡んだ大金を横取りした男をどこまでも追跡する冷徹非情な殺し屋役でアカデミー賞助演男優賞に輝いた、スペインが誇る名優ハビエル・バルデムが緊急初来日。記者会見では、セクシーなラテンの色気を振りまきながらも、こぼれるような笑顔で陽気に語った。

-----まずはご挨拶をお願いいたします。

 日本語で)こんにちは。私はハビエル・バルデムです。日本にくれて……No!、来られてうれしいです。『ノー・カントリー』観てね。ありがと(笑)。

-----初来日ということですが、日本の印象はいかがでしたか?

 日本にはまだ、8~10時間くらいしか居ないのでよく分からないんだけど、まず言えるのは日本の方々がとても礼儀正しいということ、昨日の夜ちょっと歩いてみたんだけど、東京の街がとても清潔だということだね。マドリッドはこんなにきれいじゃないから(笑)。日本食レストランに行ったんだけど、そこでは誰一人として英語をしゃべれなかったので、メニューを指差しで注文して、運ばれてきたものを食べはしたものの、結局何を食べたのかまるで見当もつかなかった(笑)。とても美味しくて、見た目にも美しかったけどね。40歳で初めての土地に行き、全く新しい経験をするというのは良いことだよ。それに、この素晴らしい映画のPRで来られたことはとてもうれしい。招いていただいて、あらためてお礼を申し上げるよ。

-----アカデミー賞助演男優賞、おめでとうございます! まだお疲れが残っているかと思いますが、まずは受賞したときのお気持ちをお話しいただけますか?

 そんなに疲れてないよ。昨日ちゃんと8時間寝たからね(笑)。来日できてとても光栄だ。それに、ここに大勢の方々が集まってくださって驚いている。いらしてくださってありがとうございます。
 オスカーを受賞したときのことだけど、僕は本当に緊張していたんだ。というのも、みんなの名前を挙げて感謝の言葉を述べなければいけないんだけど、40秒しかなかったんだよ。目の前に巨大な時計があって、それが「10、9、8、7……」とずっとカウントダウンしていくので、“まいったな、言うことがたくさんあるのに……”と焦っていた。で、最後に「オーケー、母に何か言わなければ!」とスペイン語で感謝の気持ちを述べたんだ。本当に皆さん、敬意をもって優しく接してくださった。実に光栄だったね。あれから2週間経って、“最高の夜だった”とじわじわ感激をかみしめているところなんだ。でも、あのときはもう、ただ緊張していたね。

-----お母様をはじめ、ご家族の方々は受賞について何とおっしゃっていましたか?

 会場にはスペインから親族12人を連れてくることができたんだ。ここにも来ている僕の美しいエージェントに心から感謝している。どうぞ彼女にも拍手をお願いします。家族全員が授賞式に参加できたのは、奇跡のような感じだったよ。母はとても誇りに思ってくれた。というのも、僕の母だし(笑)、母は僕がやることは何だって誇らしく思ってくれるからね。それに僕の一家は役者としての長い歴史があって、祖父母も役者だったし母もそうだ。僕に至るまで脈々と役者の血が流れていたわけで、だからこそ、家族全員に捧げたいオスカーの受賞だったね。

-----受賞を分かち合ったときには、コーエン兄弟とどんなお話をされましたか?

 僕が受賞したときにコーエン兄弟が最初に言ってくれたのは、「おめでとう」という言葉だった。彼らはいわば、根っからの映画監督なんだよね。作品賞を受賞したときも「ふ……まあ、僕らはこの映画が好きだしね」という感じで、心の中ではすごくうれしかったし栄誉だと感じていたと思うんだけど、「ふ……ありがたいことだね」と(笑)。ジョエルはたくさん賞をとったことについて、「ちょっとクレイジーじゃないか」とも言っていた。こんなことになるとは思ってもいなかったからね。中でも僕が一番うれしいと感じたのは作品賞で、この賞に値する映画だと思うし、この映画のために多くの人々が頑張っていたから、これはみんなのための賞だよ。

-----オスカーを受賞したことで、ハビエルさんの中で何か変化はありましたか? 受賞者だけが知ることのできるような授賞式の裏側のようなものがあるのでしたら、お聞かせ下さい。

 自分の中で何かが変わったことはないと思う。そう願っているけど。オスカーを頂いたからといって、自分が最高の俳優だとは思っていない。オスカーをとる前から最高だったからね……というのは冗談だよ(笑)。いや、何も変わっていない。本当に光栄なことだけど、そういうことが起こったときに、少しその事実から距離を置いて自分を見つめることが大切なのではないかと思っているよ。
 アカデミー賞授賞式では、僕は本当に心静かだったんだよね。それは自分がとると思っていたからではなくて、いろいろなことで頭がいっぱいだったからなんだ。万が一受賞してステージに上がったとしたら何を言うべきかと考えていたので。ただそのことだけを心配していた。“もしも受賞してしまったら、何か言わなくてはいけない。感謝しなくちゃいけない人たちがたくさんいる。どうしたらいいんだろう?”と。授賞式の間中、ひたすらそのことを考えていて焦っていた。名前を呼ばれても、心の中ではまだその問題に取り組んでいたんだ(笑)。だから、受賞して感激したというよりも、スピーチの心配で動揺していた。周りのことを見る余裕なんて全くなかったよ。

-----どうしてこの役を演じたいと思われたのですか? この映画に出たい思われた一番の理由は?

 18~19歳の頃だったが、僕はコーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』を観たときにものすごい衝撃を受けて、いつか一緒に仕事が出来たらいいと夢見ていたんだ。でも、僕はスペインに住んでいたし、彼らはアメリカに住んでいるから、まず難しいだろうなと思っていた。スペイン人俳優がコーエン兄弟と仕事をする機会はなかなか無かったし。その可能性が見えてきたときには本当に光栄だったし、ほとんど奇跡のようだった。それが一つ目の理由だ。
 二つ目は、脚本には僕が好きではない暴力的なシーンがいっぱいあったにせよ、マッカーシーの原作を読んだとき、このキャラクターの行動や言葉の裏側に、大きな哲学的な広がりがあると感じたんだ。そしてコーエン兄弟なら、このキャラクターのそうした部分を引き出せると思った。僕はコーエン兄弟を全面的に信頼していたので、どう演じたらいいのか相談しながら役を作っていった。いったん「やる」と言ったからには、優れた監督である彼らのやり方に身を委ねようと思ったんだ。

-----独特の髪型、何を考えているのか分からない不気味さなどが印象的な役柄でしたが、あの殺し屋シガーはどのようにして生まれたのでしょうか?

 あの髪型はコーエン兄弟のアイデアだった。打ち合わせのときにトミー・リー・ジョーンズが持ってきた本の中にあった写真がヒントになったわけだが、それは80年代のメキシコ・アメリカの国境付近に関する本で、そこにちょうどあれと同じおかっぱ頭をした人々が写っている写真があって、それを見たコーエン兄弟が「これは面白い!」と言ったんだ。僕はちっとも面白くなかったけどね(笑)。でも、彼らが面白いと思ったので、採用されてしまったんだ。僕は“どうかしている……”と思ったものだけど、実際にやってみると素晴らしいアイデアだということが分かった。まさしく、コーエン兄弟の才能を示していると思ったよ。こんな具合に彼らは、一人のキャラクターの中でユーモアとダークな面を見事に組み合わせることができるんだ。

-----この役を演じるにあたって、彼の素性を想定して念頭に置いた上で演じられたのですか? それとも、あくまで謎の男として演じたのでしょうか。

 僕が一番ベースにしたのは、コーマック・マッカーシーの原作だった。そこに描かれていたのは、人間というよりももっと大きな自然の力を体現した、まさしく暴力的な世界に恐怖と暴力を導く存在だった。そしてコーエン兄弟と僕が試みたのは、シガーを人間というよりは神話的な存在に仕立て上げることだった。彼を家畜銃を持った狂人、単なるサイコパスとして描くのは安易すぎる。この映画が語っているのは、もっと壮大な哲学的命題、つまり、死、運命、そして暴力そのものだ。そうした恐怖を体現しているのがこのキャラクターなんだ。だから、僕たちはシガーに、そばにいると不安を感じさせるような振る舞いをさせるようにした。彼を見たら、皆さんは心底不安な気持ちになるはずだね。

-----冷徹な殺し屋として何度も殺しのシーンを演じなければならなかったわけですが、大変だったことは?

 僕は特に人を殺すのが好きなわけではないし(笑)、楽しめることではないね。映画でも暴力シーンはあまり好きじゃない。ただ原作からして、この作品の暴力は全くレベルが違うと思った。僕たちが心の中で闘わなくてはいけない内なる暴力を描いている。 大変だったのは……、今思い出せるのは、モーテルで3人の男を立て続けに殺すシーンだ。僕はかなり“うぇ~”という感じだった。銃を渡されたときも、「嫌だ、銃なんて触れない……」と言ったら、「本当にこの役を演じるんですか?」と小道具係に聞かれたよ(笑)。僕は銃が怖いんだ。それに、あのバンバンという銃の音も嫌いだ。だから、この役をやるのは何ともヘンな気分だったけど、「アクション!」がかかったら、表情を変えてちゃんと演じたよ(笑)。

-----ロケ地はテキサスやニュー・メキシコなどで、過酷な環境だったそうですが、撮影中、苦労はありませんでしたか?

 撮影中一番辛かったのは、朝起きて鏡の中にあの髪型の自分を見ることだった(笑)。メキシコでオフのときに買い物に行っても、みんなが僕のほうを見るんだよ。“この訛りの強い男は一体誰なんだ? おまけに……あの髪型”って目でね(笑)。それ以外は実に楽だった。コーエン兄弟はあらかじめどう撮るべきか完璧に把握していて、その通りに撮影されていくから、撮影中は喜びしか感じなかった。ピリピリした感じや、誰かが疑問を持ったり苦しんだりといったことは全くない現場だった。「それは許されないことだ」とコーエン兄弟は言っていたよ。みんながこれだけリラックスした現場というのは、僕にとっても初めてのことだった。

-----これまで、スペインのペドロ・アルモドバル監督やアレハンドロ・アメナーバル監督、スペインではありませんがジュリアン・シュナーベル監督といった世界の巨匠とお仕事をされてきましたが、これまで組まれた監督たちと比べて、コーエン兄弟の演出法はどんなところが違っていましたか?

 名前を挙げてくださった監督たちは皆素晴らしい方たちで、一緒に仕事が出来たことをとても光栄に思っているんだ。こうした監督たちはいつも役者の持っているものを100%引き出してくれて、俳優に栄誉を与えてくれる。僕が恵まれたのは、そういう幸運だ。彼らには“僕を選んでくれてありがとう”という感謝の気持ちを常に抱いているよ。
 コーエン兄弟は二人共とても静かで、ごく普通の人たちだ。今でも大学生のように見える(笑)。絶対に喧嘩しないし、口論もしない。二人に何か質問しても、ジョエルが「左」と言い、イーサンが「右」と言うことは決してなく、あらゆることについていつでも合意がなされているんだ。まるで一人の人間のようで、ちょっと怖いよ(笑)。現場では彼らはあまり話をせず、俳優には自由に演技をやらせてくれるし、どんな質問にも答えてくれた。僕はちょっと退屈するとたくさん質問を始めるんだけど、兄弟はいつも忍耐強く答えてくれたね。

-----先ほど、本作は「作品賞に値する映画だ」とおっしゃっていましたが、どんなところがそうだと思われますか?

 僕にとって本当に良い映画というのは、まずは芸術であるということだ。説明するのは難しいのだけど、芸術というのは自ずとそれが芸術であることを人々に伝えるものだ。
 ただ、これはあくまで僕の意見だが、『ノーカントリー』が何故作品賞に値したかというと、とても純粋な映画だからだと思う。つまり、全く人工的なところがないんだ。実に素晴らしい映画のスタイルだ。テンションも自然と生まれてきている。コーエン兄弟だけが出来ることじゃないかな。 音楽にしても音符の一つひとつ、キャラクターの描かれ方、俳優たちのアクションとリアクション、どれをとってもヘンに作り込まれている感じはなくて、台詞も自然に生まれてくるかのようだった。これこそが最優秀作品賞に値する作品だと思ったね。

-----さまざまな役柄を演じてこられましたが、役者として大切にしていらっしゃることは?

 役者にとって必要なことはまさに、演じたいという欲求そのものだ。演じることによって何かを達成すること、キャラクターの仕草を創り上げ、その人の目を通して自分とは違った視点を持つことができる。大体、僕は他に何をやったらいいのか分からない。それも、ご質問の答えの一つと言ってもいいな。とにかく、自分の出来ることで仕事があるというのは幸運なことだと思う。それはつまり、演じるということで……なんか、ヘンな答えだな。もう一回言い直すことにする(笑)。 えっと、役者であるために必要なことは、まずは仕事がなくてはならない(笑)! 大切なのは、ビジネスとかキャリア、名声や成功じゃない。毎日毎日、より価値のあるものを求めて闘わなくてはいけない。自分のためだけでなく、観客のためにも。それが答えだと思うよ。

■ハビエル、「エド・はるみさんによるレッド・カーペットマナー講座」に登場!

 会見の後に行われたイベント「エド・はるみさんによるレッド・カーペットマナー講座」ではまず、マナーにうるさい吉本芸人エド・はるみが、お堅いスーツ姿で登場。一通り“グー”芸を繰り出した後、マイクが入っていなかったことに気づくというハプニン“グー”にも機転を効かせて乗り切ったからさすが。BGMの「マイ・シャローナ」がかかるや、スーツを脱ぎ捨て、燃えるようなレッドのシャツに黒のスパッツ姿でダンシング・タイム。そうして盛り上がったステージに迎えられたハビエル・バルデムは、「実際にお会いすると、グッド・ルッキングー!」と、変顔で両親指を突き出すエド・はるみを見て呆気にとられた後、顔を真っ赤にして大笑い。現在大人気のコメディエンヌ、エド・はるみの印象を聞かれると、「むふふ」と意味深な笑いを浮かべ、「いい色使いだね。赤と黒というのはすごくスパニッシュだ」。ハビエルは、ステージで堂々たる存在感を誇示する等身大の殺し屋シガーPOPの肩にかけられた襷(たすき)にも興味津々。「アカデミー賞助演男優賞受賞」と書かれているのを指して、「これ、何て書いてあるの? “世界で一番間抜けな男”?」と深読み(?)してみたり。フォト・セッションでは、エド・はるみと相棒シガーと共に、お約束の“グー”ポーズを決めて写真に納まるという、オスカー俳優とは思えないスパニッシュなノリの良さを発揮してくれた。

ファクトリー・ティータイム

絵に描いたようなラテン男そのものだったハビエル・バルデム。えくぼがキュートなとろけるような笑顔、濃厚なフェロモンを振りまきながらも、笑いをとることは忘れない。数々の映画でお見かけした以上に(殺し屋シガーも含む)、強烈に魅力的でイケているお方でした。
(文・写真:Maori Matsuura)


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