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『たとえ世界が終わっても』
単独インタビュー

2007-08-25 更新

芦名 星


たとえ世界が終わってもcsa
© 2007 NEO Index Corporation. All Rights Reserved.
配給:アルゴ・ピクチャーズ

芦名 星

 1983年福島県生まれ。
 ファッション誌を中心にモデルとしても活躍。数々のドラマ出演を経て、ANB「仮面ライダー響鬼」の姫役で注目を集める。
 2008年公開予定の日本・イタリア・カナダ合作の映画『シルク』(フランソワ・ジラール監督、マイケル・ピット、キーラ・ナイトレイ、役所広司ら出演。2008年正月第二弾公開予定)の日本人ヒロイン役にて出演。国内外から熱い注目を浴びる女優の一人である。
 また『Mayu -ココロの星-』(9月29日より全国公開)が公開待機中。フジテレビ系10月スタート火曜夜10時枠連続ドラマ「スワンの馬鹿!~こづかい3万円の恋~」(仮題)にて、マドンナ役で出演決定。



 生きることに絶望した孤独なヒロインが経験する不思議な出会いと、過去と未来をつなぐ心の旅を瑞々しく描いたファンタジー『たとえ世界が終わっても』。本作は、短編映画館・下北沢トリウッドで上映された連続映画『演じ屋』が大きな話題を呼ぶなど、カルト的な人気を博する映像制作集団・主力会を率いる野口照夫の劇場長編デビュー作にして、“時をめぐる三部作”の一本として構想された作品だ。ヒロインを演じるは、日本・イタリア・カナダ合作映画『シルク』のヒロインに抜擢され、海外進出でも期待されている実力派の大型新人・芦名 星。類まれな存在感と個性で難役を演じきった彼女が、役作りで経験した苦労と喜びを率直に語ってくれた。


とても綺麗な髪の毛ですね。お手入れは大変ではありませんか?

 何もしていないんですよ。あまり可愛がっていないから、かえって元気なのかも(笑)。枝毛も結構ありますし、湿気に弱くてクルクルしちゃいますし。ストレート・パーマはかけていません。だから、生え際とかはクセがあるんですよ。


本当に素敵な作品でした。芦名さんの演技も素晴らしかったですし、脚本も共演者の方々も良かったと思いますが、これが初主演作であるということを、ご自身としてはどのように感じていらっしゃいますか?

 いろいろと複雑な想いがあります。最初は「えっ? 私が……主演なの?」というところから始まって、「……だいじょうぶ?」って(笑)。オーディションが終わって2~3時間後に結果をいただいたんですね。それで、マネージャーさんから「さっきの、決まったから」と言われたんですけど、「あぁ、そうなんですか。……さっきのって何ですか?」と(笑)。別のお話もあって、そちらだと思ったんですよ。「さっきの映画だってば!」「えぇっ!? あれ、主演じゃなかったっけ……?」というのが、決まったと知ったときの反応でした(笑)。オーディションをしたときは、主演とは伺っていなくて“真奈美”役で受けたんですね。その役で受けても、よく「違う役で出てみませんか?」というお話はあるんですよ。ですから今回も、最初は「やった!」と喜んだんですけど、家に帰って台本を読んでいたら、“あたし、自分で舞い上がってるだけで、実は真奈美役じゃなかったらどうしよう……”なんて考えて(笑)。それから3日後くらいにマネージャーに電話して、「あの、あたしって、真奈美役でいいんですよね……?」「……誰のつもりで台本読んでるの?」「あ、そうですよね!」……という具合に、“やっぱり、あたしが主演なんだ”と認識するまでちょっと時間がかかりまして(笑)。
 その後は、ようやく実感がわいてきました。実感してからは、プレッシャーじゃないですけど、“どうする? この映画、あたしが出来なかったらつぶれちゃうんだよね……。はぁ~、大丈夫かな……”と、毎日毎日台本を読みながらも不安にかられて、リハーサルに入ってからもずっと模索し続けて、試行錯誤というよりも“ダメだ、ダメだ”と悩むばかりでした。監督は「大丈夫だよ」とおっしゃって、私の様子をずっと見てくださっていたんですけど、本番に入る2日前くらいに本読みが終わったとき、自分の出来なさ加減にガッカリしたのと不安が爆発して、家に帰ってからワーッと泣いてしまったんですね。そうしたらふっと、“今出来ることをやれば、それでいいんじゃないかな”と気持ちが切り替わったというか、これまでは“よく見せたい、うまくやりたい、もっとこうしたい、これじゃダメだ”と、勝手に自分で考えすぎていたところがあって、でも“今自分が出来ることを素直にやればいいんじゃないかな”と思えたんです。
 それで本番の前日、リハーサルに行ったら、「すごく良くなったね。そう、そういう感じだよ」と監督がおっしゃってくださって……。ですから、撮影に入る前は自分の中でさまざまな感情がぶつかって、とにかく悩みましたが、現場に入ってからは吹っ切れて、ひたすら集中して演じました。


演じる前に、頭の中で考えすぎてしまったんですね?

 そうですね。“ここはこうしたほうがいいね”などと言われたことも全て台本に書き込んだりしていたんですが、それとは別に、何がどうダメとかではなくて、無暗やたらに“これじゃダメかも……”という不安にかられてしまって、何もかも分からなくなってきてしまったんです。台本をいただいてから、感情が爆発するまでは長いことそんな状態で、“このまま入ったらダメだ”と監督も思われたでしょうし、私もそうでしたので、本読みは本来は3日間しかなかったはずなんですけど、本番に入るまで監督が時間を取ってくださって、ようやく最終日に「良かったね。ようやく抜け出せたんだね。撮れる気がしてきたよ」とおっしゃってくださり、“あぁ、分かってくださっていたんだ”と思いましたね。


そこまで試行錯誤して作られた役柄だったんですね。そもそも難しい役ですよね?

 ええ、とにかく「……」が多かったんですね。あと、ト書きも。その時々の表情については特に監督から指摘されることもなかったんですけど、短い台詞を口にしたとき、「もう少し感情を出してもいいよ」と言われて、私はこれくらいかなと思ってやっていても、「それでは伝わらない」とか「表情がそれだから、もう少し言い方を変えてみてくれる?」とか、すごく細かい微妙なところが出来なくて、自分が表現しているつもりの感情が、見ているほうには全然伝わっていないということが多々あったんです。『シルク』の役も言葉が一切なく、表情だけでずっと感情の動きを表現したんですけど、今回もそれと少し似ていて、台詞が少なく、「なんで?」とか「えっ?」とか、あとは「……」ばかりでしたので、その短い一つひとつの言葉にすごく大きな意味、複雑な感情がこめられていたわけです。それは台本を読んで良く分かっていたんですけど、うまく表現することができなくて、それが私がぶち当たった最大の壁でしたね。


微妙な演技が求められたことは良く分かりますし、前半と後半ではまた、大きな心の変化がありますよね?

 ええ。ただ、私が悩んだのは撮影に入る前で、入ってしまってからは監督や皆さんと一緒に作り上げていけたんです。意見を言えば監督も「そうかもしれないね。じゃあ、そっちでやってみようか」と受け入れてくださったり、監督から「こっちのパターンはどう?」と聞かれて意見を言ったりとか、お互いに思うことを率直に話し合いながら出来たんですね。長田さんを巡る感情の流れについても、安田(顕)さんとあれこれ話し合いながら決めていったので、それは楽しくやれました。


実際に現場に入らなければ分からないことってあるでしょうね?

 そうなんですよ。大森(南朋)さんの役も、本読みのときとはかなり違っていましたね。


大森さんも素晴らしい演技でした。

 ええ、私は笑いをこらえるのが大変で、「私の目を見ないでください」なんて言いながらやりました(笑)。素顔の大森さんは本当に素敵な方で、私にも気さくに接してくださったんです。大森さんと一緒にいる時間がとにかく楽しくて、でもいざお芝居に入ると、あの高いテンションに一気にもっていくんですから、本当にすごいなと思いました。さっきまでギター弾いて「あぁ~ん♪」とか歌っていたのに(笑)、「大森さん、お願いします」と声がかかると、即あそこまでガン!と上げられるんですよ。あとはアドリブも多くて、あの長台詞の中に入れるんですから、もうビックリです。もちろん、基本的には台本どおりなんですけど、要所要所にアドリブで入れる言葉がすごく良くて。あと、表情もそうですよね。私はあまり見ないようにしていたんですけど、監督はモニター見ながら一人でケラケラ笑ってて、私は怒っていたりとかシビアな演技をしているのに、監督が「カット!」と言った瞬間、スタッフみんなが大笑いしたりして、「ひどい! 私だけいじめられてる……私も笑いたい!」と言ったものでした(笑)。


プロフィールを拝見すると、ご趣味が筋トレ、アウトドア、スポーツ、釣りなどで、お好きな映画もアクションと書かれていて、芦名さんはもしかしたら結構“男前”な方なのですか?

 実は私、お兄ちゃんが2人いて、小さい頃から、例えばアニメなんかも「秘密のアッコちゃん」「魔法使いサリー」などよりも、「魁!!男塾」「北斗の拳」とかのほうを見ていましたし、お兄(にい)が釣りをやれば私もやるし、キャンプやると言ったら一緒に行くし、格闘技ごっこもしたり……といった子ども時代を過ごしたので、それがずっと続いていて、今も釣りは行きますね。筋トレは、この仕事をしているからということもありますし、体重管理はしっかりしておきたいんです。細くても締まった体でいたいですし、女の子らしくなくていいので、綺麗でカッコいい体型でいたいなと思うんですね。基本的に、スポーツだったり自分の体を使って何かすることが好きです。アクティブですね。


では、こういうヒロインはご自身とは全然違うという感じですか?

 ん~、真奈美のように悩んだ時期もありましたよ。自暴自棄じゃないですけど、もう何もかも嫌で、本当に「死にたい」と思ったこともあります。さすがに自殺サイトに行ったりはしませんでしたけど。“もう、全部止めちゃいたい、何にもしたくない、死んだほうがまし……”と思ったこともありましたから、共感ではないですけど、彼女の気持ちは分かりましたね。
 この真奈美という役は、もともと生い立ちが不幸だったという裏の設定がありまして、どんなに一生懸命頑張ってもどうせうまくいかないと思い込んでいますし、せっかく努力してようやくこれからというときに病気になったりして、死にたいというより、彼女は生きているのが辛いんですよね。ずっと辛い人生を送ってきて、さらに追い討ちをかけるようなことがあったら、“辛いだろうな、死にたくもなるだろうな”と、そこはすんなり感情移入できました。


でも、どうして見知らぬ他人と一緒に死にたいと思うんでしょうね?

 監督もそれに疑問を感じて、この台本を書かれたらしいんです。死にたいけど一人では死ねないのかな、そこですでに迷いがあるのに、どうして死にに行くんだろう……というところから考えていかれたとか。実際、私たちの最初の会話もそれでした。「真奈美って、本当に死にたいんですかね……?」って。オーディションのときにもその話になったんですけど、「死にたいけど死ねないから集まって、間違って死んじゃうんですかね? 本当は一人だったらやらなかったのに、みんなで集まったら後は引けなくなるので、一緒に死んじゃうんでしょうか」「一人だと死ぬことに恐怖心があって、恐怖心は生きることにつながるんだよね」「でも真奈美も、思いとどまってはみたけど、自分の人生を振り返るとやっぱり生きていたくないと思うんでしょうね。で、屋上に行ってみるけど、やっぱり怖くて……」「それで自殺サイトに行って、知らない人たちと会い、真奈美は根が真面目なので、いったん決めたんだからちゃんと死ななきゃ、って思うんだろうね」という会話をして詰めていきました。
 撮影は2週間とタイトだったんですけど、その間、私はほとんど自分に戻る時間がなくて、中盤になると自然と「真奈美はこの言葉を言わないと思います。そういうふうに考えるからこう行動するんですよね」と言えるようになり、後半は監督も「思うようにやってみて」とおっしゃってくださいましたね。


ファンタジーでもあるかもしれませんけど、不思議なリアル感のあるストーリーでした。

 そうですね。ファンタジーの部分って、題材は重いんですけど、ちょっと楽な気持ちで観られるようにという想いがあったと思います。そのバランスが面白い映画ですよね。


長田さんという男性も魅力ですね。

 はい。「こんなにピュアな人って、実際にはいないですよね」なんてみんなで言い合いましたけど(笑)。ひたすら死にたいと思っていた真奈美にそれを忘れさせるくらいの人を演じなくてはいけなかったわけですから、安田さんも結構悩む部分はあったようです。彼は私よりずっと年上なんですけど、表情を見ていると胸がキュンとしちゃいまして……(笑)。
 長田さんも純粋ですけど、大森さんが演じた妙田という役も実はすごく純粋で、誰よりも人のことを考えていて、冷たそうな言葉の裏側にすごく温かいものがあると感じましたね。それは真奈美も同様で、その3人のそれぞれの想いを感じていただけるとより楽しんでいただけるかなと。


タイトルは『たとえ世界が終わっても』ですが、その後に言葉を続けるとしたら?

 その話もしましたね~(笑)。最初は『ラスト・アルバム』というタイトルだったんですけど、その後『たとえ世界が終わっても』に変わったらしいんですよね。私は何となくくすぐったい感じがして、その話には乗らなかったんですけど、大森さんは確か「たとえ世界は終わっても、妙田荘は終わらない」って……(笑)。「たとえ世界は終わっても、二人の愛は永遠に」と言う人もいて、「うわぁ~、気持ち悪い!」なんて(笑)。
 たぶん、いろいろな意味があると思うんですね。苦しいことや悲しいことがあっても、前を向いていれば必ず良いときもあるんだよ、とかさまざまなメッセージがこめられているんだと思います。人生が長くても短くても、何よりも大切なのはその人がどう生きたかであって、人の幸不幸はその人にしか分からないということが、この映画から伝わってくる気がします。
 真奈美には立ち直れる力があったし、その力を与えてくれる人たちとの出会いもありました。でも、彼女が目を閉ざしていたら、おそらくその機会は訪れなかったでしょうから、そういう部分を観ている方々に感じていただけたらうれしいですね。


海外進出された映画『シルク』は、もうご覧になったんですか?

 はい、何回か。もう、鳥肌が立ちましたね。画も美しいですし、本当に素晴らしい作品です。


日本でも撮影したのですか?

 日本が半分、海外が半分だったんですけど、役所広司さんとマイケル(・ピット)と私は日本で撮りました。キーラ(・ナイトレイ)とマイケルと中谷美紀さんはイタリアで。他にも8ヵ国で撮影しているんですけど、そこはほぼマイケルだけです。


マイケル・ピットが主演ですよね? 彼が日本に来て……というストーリーですか?

 はい、日本の村にやって来て、役所さんの奥さん役が私なんですけど、マイケルと恋に落ちて……という具合にお話が進んでいきます。


マイケルとは結構お話をされたんですか?

 しました。役所さんと國村 隼さんとマイケルとは毎日一緒にいましたから、いろいろな話をしましたね。彼はミュージシャンなので着ている服もすごく個性的ですし、あたしが持っていない面白い感覚を持っている人でした。それにとても純粋で、目がすごく綺麗で(笑)。


最後に、これから映画をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いいたします。

 すごく良い映画に仕上がっていると思います。生きることとか自殺とか、とても難しい題材を扱っているんですが、きっとこの映画を観た後は“頑張って生きていこうかな”と思うことができるはずですので、いま楽しんでいらっしゃる方もちょっと悩んでいらっしゃる方もぜひご覧ください。よろしくお願いいたします。


csa

ファクトリー・ティータイム

 とても印象的な方だ。ご自身はきわめて自然体であるがままでいるはずなのに、不思議な雰囲気をたたえていらして、一度出会ったら忘れられなくなる、そんなタイプの女優さんで、ご自身の心の中から言葉を紡ぎ出すように話されるところもとても魅力的だった。9月に全米公開の『シルク』で世界デビューされるが、この類まれな存在感と演技力は必ずや海外でも注目されるはず。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)





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