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『厨房で逢いましょう』インタビュー

2007-08-25 更新

ミヒャエル・ホーフマン監督&フランク・エーラー


厨房で逢いましょうeden
配給:ビターズ・エンド

ミヒャエル・ホーフマン監督

 1961年生まれ。
 あちこちを旅して回り、フランスの映画学校FEMISで学んだ後、1988年から1990年にかけて、CMのスポットを製作。1991年以降、フリーの脚本家、監督として活動。1994~95年、ミュンヘンの脚本学校の奨学生となる。
 1998年、初の劇映画『Der Strand von Trouville(トゥルーヴィルの海岸)』を製作・監督・脚本。監督・脚本を手がけた2作目『Sophiiii!(ゾフィー!)』(01)で2002年ドイツ映画賞監督部門支援賞を受賞。
 3作目となる『厨房で逢いましょう』で06年ロッテルダム映画祭観客賞、06年ペサロ映画祭観客賞を受賞した。


フランク・エーラー

 1964年5月9日、ドイツ・バイエルン地方の南部の小さな田舎町ムッセンハウゼンに誕生。
 1978年から1981年までドイツの名店「レストラン・ベンツ」で修業したあと、ドイツ南部のリゾート地・ムルナウの「レストラン・アルペンホーフ」、湖畔ホテル&レストラン「ズィーバー」、バイエルン北部の町・ヴェルトハイムの「シュヴァイツァー・シュトゥーベン」で料理に励む。その後ロンドンのアントン・モシマンの店で副料理長を務め、スイス・バーゼルの「トイフェルホーフ」でも同じく副料理長となる。
 1995年、自らがオーナーとなる「D'Rescht」をドイツ南部のアルゴイ地方にあるハヴァンゲンに開店。複数のレストランガイドが、彼を“若くワイルドな料理人”として注目し、彼の“官能的にしてエロチックな”料理を褒めたたえた。グルメガイドブック「GAULT MILLAU」誌にて「今年の発見」「メニュー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。
 スペイン・マルベラの「ラス・ドゥナス」と、ロンドンのアントン・モシマンの店でエグゼクティブ・シェフを務め、2002年にミシュランの1つ星を獲得。
 2005年にはドイツ・カールスルーエ近郊のエットリンゲンにある5つ星ホテル「エルププリンツ」の料理長となる。



 料理の腕前は超一流だが、人とのコミュニケーションが苦手な天才シェフが、平凡な主婦に恋をした。彼女への密かな想いをこめて創る料理の味はますます磨きがかかっていくが……。不器用な大人の恋の物語『厨房で逢いましょう』を生み出したミヒャエル・ホーフマン監督と、劇中に登場する魅惑的な“官能料理(エロチック・キュイジーヌ)”を手がけた天才料理人フランク・エーラーが揃って来日、“料理”の話題を中心に和気藹々と語ってくれた。


エデンはグレゴアの料理によって「人生が変わった」と言っています。また、彼女もグレゴアの料理に影響を与えていますが、監督ご自身は料理が人生を変え得るとお考えですか?

ミヒャエル・ホーフマン監督: 最初は、「美味しい料理が人生を変える」という考え方自体が合っているのかどうか、自分自身でもあまり確信がなかったんだが、フランクの所に行って、彼が作った料理を食べたときに“あ、それは本当のことなんだ”と確信できたよ。本当に美味しい料理を食べると、全く新たな方向から人生に光が当たるような感覚を味わうというか、今まで自分が持っていた価値観を改めて考え直す機会になったりする。私も、これまで物質的なものを重視しすぎていたのではないか、幸福というのは感覚的なものにこそつながっているのではないかと考えさせられたんだ。人は誰でも幸福でありたいと思い、もしも出来ることならその幸福をお金で買いたいと思っている。でも幸福はお金で買えるものではない。でも料理は、お金で買えて幸せを実感できる数少ないものの一つではないだろうか。もちろん、他の芸術でも感動と幸福の瞬間を味わうことはできる。音楽を聴いたり、絵画を観たり、素晴らしい文学作品を読んだりすることによって感動するわけだが、こういった芸術作品を食べることはできない。食べるというのは直接自分の体の中に入れるということだから、それが他の芸術に比べて料理のもつ特殊性だと思うね。


eden

エーラーさんは、何かがご自身の料理に影響を与えたという経験はおありですか?

フランク・エーラー: 他の料理から影響を受けるということはないね。他の料理から学ぶということがなくても、料理人がクリエイティブで繊細で、あらゆることに目を開いてさえいれば、美味しい料理は作れるものだ。
 料理以外では、エーリッヒ・シックリングという偉大な哲学者(註:画家で神秘主義者でもある)がいるんだけど、彼と10歳のときに出会って以来、ずっと心の父と思っている。彼の哲学にずっと影響されて生きてきたし、僕の料理にも間接的に影響を与えていると思う。


監督、グレゴアが木から落ちるシーンには驚かされましたが、あれはどのように撮影されたのですか?

ミヒャエル・ホーフマン監督: とても難しいシーンだった。グレゴアを演じたヨーゼフ・オステンドルフは非常に体重のある人で、スタントマンを使ってコーディネートもしたが、本番ではヨーゼフ自身がベルトをつけて木から落ちたんだ。そのベルトはもちろん、後で映像処理をして見えないようにした。それから、落ち方を調整するために、ロープをつけてちょっとブレーキをかけるというようなこともした。ヨーゼフにとっても体力的に非常に難しいシーンだったわけだが、スタントマンよりもタフだったくらい、勇敢にやってくれたよ。あまり強く落ちないようにはしたものの、彼は150キロあるので(笑)、ロープでブレーキをかけるのは難しかったね。


食べた人を次々に魅了する官能の料理ということですが、監督がエーラーさんにリクエストしたことはあったのでしょうか?

フランク・エーラー: 監督から「こういうものを作ってほしい」といったアイデアが出されたわけではなく、自由に好きなものを作らせてもらったんだ。というのは、何を作るかというのが問題なのではなく、どう作るのかということが大事だったからね。官能的な料理の作り方、どういうふうに料理を進めていくのか、その所作を見せることが重要だったんだ。


エーラーさん、映画で料理を美味しそうに見せるために工夫したことはありますか? 実際にお客さんに出す料理とは違いがあったのでしょうか?

フランク・エーラー: 映画に登場している料理は全て本物だよ。作ってすぐにカメラの前に持っていって撮るようにしたのでどれも出来立てで、まがい物は一つもない。よくスプレーを使ったり、科学物質を使って美味しく見える工夫をすることもあるようだけど、そういうことは全くやらなかった。僕はどちらかというと雰囲気を大事にするので、料理がきちんと美味しそうに写っていたのは本当に良かったと思うね。

ミヒャエル・ホーフマン監督: 撮影した後は私たちが全部食べたんだよ(笑)。


同じシェフながら、エーラーさんと内向的なグレゴアは180度逆のタイプに見えます。彼をどのように思われましたか。

フランク・エーラー: グレゴアは太っていて見た目からしても僕とは全然違うけど(笑)、精神的には兄弟のように似ているところがあると思っているよ。特に、料理を作るにあたって、どういうふうに材料を扱うかということに関しては僕と全く同じだ。僕から写し取ったんだから、それも当然のことかもしれないけど。僕がこうあるべきと思うシェフとして描かれているよ。


監督、グレゴアは最初人に心を開かず、コミュニケーションが苦手な人物でしたが、エデンと出会うことによって表情豊かに変化していきます。途中いろいろなことが起きますが、二人にとってはハッピー・エンディングだったとお考えですか? この終わり方は最初から想定されていたのですか?

ミヒャエル・ホーフマン監督: この後二人がどうなるのかということは、観てくださる方々の解釈に委ねるよ。ただ、個人的には、この二人は幸せになるだろうと思っている。いろいろなことが起こった結果、互いが互いにとってどのような存在なのかということに気づいた二人だからね。脚本を書き始めたときには私自身、どういう結末になるのか分かっていなかった。書いている間に物語が自ずと育っていったという感じで、執筆も最終段階になった頃にはこのエンディング以外あり得ないと思った。


監督、今作では「料理で人生が変わる」ということをテーマにされていますが、映画で人生が変わると思われますか?

ミヒャエル・ホーフマン監督: 良い質問だね。それは、どういう瞬間に映画を観るかということによると思う。例えば、その映画を観に来たときに、観客が人生に何らかの問題を抱えていてバランスをとろうとしている状態だった場合、映画を観ることによってそのバランスがどちらかに傾くというようなことはあり得るだろう。私が撮ったこの映画の前の作品をご覧になった若い観客の方から手紙を頂いたことがあるんだが、「この映画を観たことによって人生が変わりました」と書いてくださっていた。本当かどうかは分からないけどね(笑)。映画を観たことによって突然変わったということはないかもしれないが、何か小さな変化があって、それによって次第にその後の人生において考え方や価値観が変わっていくというようなことはあり得るだろうね。


エーラーさんはご自身の一皿で誰かの人生観を変えるかもしれないと意識されていますか?

フランク・エーラー: 料理をしているとき僕は全く何も考えていない。料理をしているときにはストレスも全くなく、僕が銀行に口座を持っているとか、家族がいるとか、車を持っているとか(笑)、そういうことは全く考えないで、完全に自由な気持ちで創作しているんだ。だから、特別に何かを意図するとか期待するということは全くなく、何も考えずに料理をしている。


シェフは煙草を吸わないものだと思っていましたが、エーラーさんは吸われるんですね?

フランク・エーラー: ご覧になっているとおりだよ(笑)! 煙草は吸うけど、それによって味覚に影響が出るということはないし、僕が作る料理に影響が出るということもない。絵を描く人は頭の中に色彩論みたいなものがあったり、音楽を作る人は和音の理論が分かっているわけだし、それと同じことで、僕も料理を作るとき試食する必要は全くないんだ。見ただけで、この材料とこの材料を使えばこういう味になるはず、あるいは美味しいはずだということが分かる。本当に美味しいかどうかは、お客様に委ねるだけだ。だから、僕は自分が作った料理を食べることはほとんどないんだ。


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明日の朝に死ぬとしたら、最後に食べたいものは?

フランク・エーラー: そのときが来たら分かると思う(笑)。

ミヒャエル・ホーフマン監督: そのときが来るんだったら、そこにはいたくないね(笑)。

フランク・エーラー: 死ぬ前に4週間くらいあるといいな。その間に美味しいものをたらふく食べて死ぬよ(笑)。


ファクトリー・ティータイム

 “官能料理(エロチック・キュイジーヌ”という、なんとも心そそられる料理を生み出した天才料理人……しかもドイツ人……どれほどいかめしく、近寄り難い雰囲気をたたえた方なのだろうと想像していたら、途轍もなくエネルギッシュかつダイナミックに話し倒す、とことん陽気なフランクさんに唖然。おまけに、料理人にはあるまじき……と思っていたが、顎鬚をしごきながら、引切り無しに煙草をプカプカ。「試食をする必要がないから、何の影響もない」とおっしゃる。……やっぱり天才だ。もの静かな感じの監督も、フランクさんと二人っきりにされるや否や、しゃべりまくりで実に楽しそうな仲良しのお二人だった。
 インタビュー後、おぼつかないドイツ語をひねり出して「9月にドイツに行くんですよ」とフランクさんに話しかけると、「ホント!? ぜひ食べに来て」と名刺とレストラン・ホテルのパンフレットを頂いた。監督に「料理は人生を変えると確信できた」と言わしめたその“エロチック・キュイジーヌ”、……食べてみたい。でも……高すぎる。ムリ! でもいつの日か必ず……。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)





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