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『由宇子の天秤』
日本外国特派員協会 記者会見

2021-09-16 更新

春本雄二郎監督、片渕須直(プロデューサー)

由宇子の天秤yuuko ©2020 映画工房春組 合同会社
配給:ビターズ・エンド
9月17日(金) 渋谷ユーロスペース他全国順次ロードショー!

 瀧内公美(『火口のふたり』、『裏アカ』)を主演に迎えた春本雄二郎監督(『かぞくへ』)最新作『由宇子の天秤』が、いよいよ今週末9月17日(金)より渋谷ユーロスペースほかにて全国順次公開となる。すでに世界中の映画祭から高い注目を集めている本作。この度、日本劇場公開を前に、9月13日(月)に日本外国特派員協会にて、春本雄二郎監督とプロデューサーを務めた片渕須直氏が記者会見を開いた。


 ドキュメンタリーディレクターが主人公だが、リアルさを追求するためにリサーチはあったのか質問が挙がると、春本は「私はドキュメンタリーとは何なのか?ということを普段から考え、そもそも劇映画とドキュメンタリーの差はなにかということを、劇映画を作る人間として考えています。それが、ドキュメンタリーディレクターを描く一つのリアリティに寄与しているということはあると思います。もう一方で、ドキュメンタリーを作っている制作会社に取材に行って、実際に4人の女性ディレクターに会い、彼女たちの仕事へのモチベーション、対象者との接し方、どういうところでプロデューサーと対立をするか、ということをつぶさに聞いて脚本に反映させていきました」と語った。

 ダルデンヌ兄弟、キェシロフスキ、増村保造などが自分の人生で大きな影響を与えたと語る春本。今回の作品で、脚本作りに多大な影響を与えてくれた人物がいたという。「今回ドキュメンタリーのパートを作っていく中で、二人三脚で脚本を一緒に作ってくださった方がディレクターとプロデューサーがいます。脚本が骨太になったのは、彼らの力があってこそです。本来だとおもてに出てこないような、プロデューサーによって、ディレクターのやりたかったメッセージが情報操作によって歪められてしまったり、なかったことにされてしまうということ。それらが実際に業界の中にあることを彼らは教えてくれました。しかし、この映画が完成して間もなく、この映画がベルリン国際映画祭に行くタイミングで突然二人とも亡くなってしまいました。この映画を観ることをすごく楽しみにされていたのに、観ることができなかった。それが僕の中では一番心残りです。彼らの思いを残していくためにも、この映画を一人でも多くの方に届けていきたいと思っています」と胸の内を語った。


yuuko

 本作には全編にわたって音楽は使われていない。その理由について質問があがると、春本は「本作では、日常音が“音楽”になるようにするため、前作では予算の関係でできなかった“音響効果”をつけました。食器の音、遠くから聞こえる電車の走る音、カラスが鳴く声、ラジオの音などの日常音が、今そこで起きている出来事と、どういう関係性でどういう感情が生まれるのか。それを計算した上で日常音をつけることが、私の中でのチャレンジでした」と音への深いこだわりを語った。

 片渕も「彼は演出や脚本にものすごく力を注いでいることはもちろんですが、“演技”についても日頃から熱心に研究しています。彼自身が主催して演技のワークショップを開催し、どんな時にどういう演技・表情をするのかということについて神経を注いでいます。今回の作品でもそれが存分に発揮されている、それと音楽との闘いだったと思います」と続けた。


yuuko

 この映画を通して観客に何を訴えたいかを問われると、春本は「いま一番この世の中で私が問題だと思うのは、情報が溢れすぎていること。現代は情報化社会を飛び越えた“超情報化社会”だと思います。メディアはより注目を浴びるために分かりやすく、かつ視聴者が飛びつくような情報の切り取り方をしてしまい、結果、本来伝えたかった情報が間違った形で視聴者に伝わってしまっています。それを一時的な感情で、誰かが犯したミスをみんなで叩いたり、吊るし上げてしまうことが起きがちです。私は、メディアが扱う情報以外の、光が届いてないことにこそ、私たちがもっと想像を及ぼさないといけないものは潜んでいると思います。受け取る側も、メディアの情報は一部の情報なんだという冷静な視野を持ち、自覚することが必要だと思います。この映画がその一助になればと思っています」と力強く語った。

 そして片渕は、「私は『由宇子の天秤』というタイトルを最初に聞いて、てっきり裁判・法廷の映画かと思ったんですよ。それは、ジャッジする人がいて、お前が犯人だという人がいて、弁護する人がいて。しかしこの映画は、それが一人の心の中で起こっている出来事なんだなと、彼の脚本を読んで理解しました。果たして自分自身のことをジャッジすることはできるのか、自分というのは何によって出来上がっていて、客観的に自分のことを見ることはできるのかということです。それができないんだとしたら、何に頼ればいいのでしょうかね。それが、彼の脚本から私がすごく突きつけられたことです」と締めくくった。




(オフィシャル素材提供)



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