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『テロルンとルンルン』
オフィシャル・インタビュー

2020-08-21 更新

宮川博至監督


テロルンとルンルンterrolun-and-lunlun
© buzzCrow Inc.
配給:SPOTTED PRODUCTIONS

宮川博至監督

 広島県出身。
 これまでCMディレクターとして数多くの賞を受賞。
 短編初監督作品『あの夏、やさしい風』ではJIM×JIMアワードにて大賞。
 今作は、中編初監督作品。



 「中之島映画祭」グランプリ、「横濱インディペンデント・フィルム・フェスティバル」中編部門最優秀賞&cinefil賞、国内外40以上の映画祭を席巻してきた『テロルンとルンルン』が、本日8月21日(金)より劇場公開中。広島県出身で、CMディレクターとしても活躍する宮川博至監督が、本作を製作する上で意識した点や、主演の岡山天音・小野莉奈の印象、美術へのこだわりなどについて話した。


本作の企画の成り立ちを教えてください。

 初監督作である『あの夏、やさしい風』が“SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2015”で上映されたときに、美術監督の部谷京子さんがたまたま観てくださっていて、「次の作品も楽しみにしてるね」というお言葉をいただいたんです。でもその後、1~2年ほどしても何もできませんでした。ですが、部谷さんの言葉が頭の中にずっと残っていて。「何かやらないとまずい……」という焦りもあり、それでいざ腰を上げることになりました。普段僕はコピーライターの方とお仕事を一緒にすることが多く、締めの言葉などを考えてもらうことも多いです。そこで、付き合いの長い川之上智子さんに脚本家として入ってもらい、企画が動き出しました。


孤独感を抱える男女の交流を描いた物語ですが、この着想はどのようにして得たのですか?

 まず前提として、「ワンシチュエーションで展開する物語にしましょう」というところからスタートしました。そこで、“窓越しに交流する男女の物語”という案が出ました。“引きこもりの青年”、“聴覚に障害がある少女”というキャラクター設定は、川之上さんが意見を出してくれましたね。そこから、瑠海が学校でいじめに遭っているシーンや、類が葛藤している姿を捉えたシーンなどが浮かび、物語が膨らんでいきました。二人でつくりあげていった感じですね。でも、せっかく川之上さんが脚本家として入ってくれているのに、人物設定やそれらを囲む環境についてまで僕があれこれ口を出すので、やりづらかったとは思います(苦笑)。


岡山天音さんと小野莉奈さんの組み合わせがとても魅力的でした。

 類役に関しては、川之上さんの「岡山さんがいい」という猛プッシュがあり、僕自身も納得でした。瑠海役に関しては、岡山くんのマネージャーさんから「紹介したい子がいる」と、小野さんを紹介していただきました。そんな感じでキャスティングはわりとスムーズで、お二人に会いに東京へ行きましたね。そこで印象的だったのが、岡山くんは演じるキャラクターのことを“とにかく掘り下げて納得したい人なのだな”ということでした。一緒に台本を1ページずつめくりながら、シーンごとの役の感情などについてディスカッションをしました。彼はとてもストイックな俳優です。撮影前にガレージを下見していたようですし、撮影前夜に電話がきたりもしましたね。小野さんは、想像していた以上に幼く見えたのが初対面時の印象です。でも一緒に台本をめくっていると、彼女もまた役について積極的に意見を出してくれて、「あ、やっぱり女優だ」と思わされたのが記憶に残っています。小野さんは岡山くんとはちょっと対照的な感覚派で、その場で生まれた感情に乗って演技をする方という印象です。リハではやらなかったのに、本番では補聴器を投げつけたりだとか。びっくりしました(笑)。お二人とは現場に入る前から、この作品に対する共通認識が持てていたと思います。


監督は普段CM製作のお仕事をされていますが、この映画を手がけるうえで意識されたことはありますか?

 CMの仕事では“最初の波”を意識します。いわばつかみです。観ている方がどこに食いついてくれるのか。この“つかみ”が最初にないと、途中で飽きてしまいます。お客さんの感情の波と、この作品の波が合うかどうか、これをすごく意識しました。基本的にCMは、お客さんが受け身な状態であっても観てもらえるように工夫しています。でも映画となると、お金も払ってもらっていますし、“観てもらえること”が前提ですよね。ですが、せっかくCMで培ってきたものがあるので、これは活かしたいなと思いました。職業柄、観る者を飽きさせないよう、特に“波”を意識しました。あと、塩梅が非常に難しいところですが、説明しすぎないようにしようとは思いました。CMは“説明するもの”なので、気をつけないとこの作品もそうなってしまうだろうなと。それでいて、一つひとつの画に、必ず意味を持たせたいと考えていました。例えば冒頭のシーンで言えば、美しい海と山に囲まれていながらも、この町がとても閉鎖的な空間なのだとあの地形が仄めかすかのように撮りました。


舞台である広島の忠海にこだわりはありますか?

 窓を中心に物語が進んでいくということがあったので、それ以外に関しては、「気持ちの良い場所でやれればいいな」と思っていました。そこで忠海が見つかりましたね。ここは竹原市というところにあるのですが、過去に竹原市の観光プロモーション映像を撮ったことがあったので、市の方々とも仲良くさせていただいていたんです。しかも、あのガレージを見つけたときは「ここだ!」と。あの町にすべての条件が揃っていました。ちなみにガレージには窓とシャッターはありましたが、劇中に出てくる扉側の壁がもとはなかったんです。そこで美術の部谷さんが、「この辺に大工さんはいない?」とおっしゃって、壁を作ってもらいました。発想のレベルが違いますよね(笑)。


本作にはOPとED、それぞれにテーマソングが採用されていますね。

 作品の全体の雰囲気としては、日食なつこさんの世界観がこの物語を引き締めてくれると思いました。でも、ずっとエモーショナルな感じを維持するのは違うかなと。なので、類が瑠海にイヤホンを渡すシーンは、あえて日食さんの楽曲ではないものにしました。エンドロールが長い理由は、あのシーンで瑠海が聴くことができなかった、おとぎ話さんの『少年少女』をお客さんにも聴いて欲しいという思いからです。


本作は“コミュニケーション問題”を描いた作品だとも思います。

 経験上、心に何か傷のようなものがある者同士は、互いに親近感を持つことができるのではないかという考えがあります。なので、環境は違えど孤独感を抱えている二人は、なんとなく分かり合える部分があるのかなと。だからこそ、彼らは言葉がなくても自然と距離が近くなる。はたから見たら分からない、あの二人にだけ通じ合うものがあるのだと思います。



(オフィシャル素材提供)




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